世に腐るほど溢れている『通行人の背中』を入れた路上写真。インスタでもバカの一つ覚えのように『通りに後ろ姿』の写真ばかり並べている人は多くいますな。
人によって意見が分かれる難しい問題ではありますが、今回はこの『通行人の後ろ姿を無許可撮影、有りか無しか』についての戯言。
最初に言ってしまいますが私は完全否定派なので、少々偏見に満ちた内容になってしまうかと。
ストリートスナップ
写真界隈には『ストリートスナップ』と呼ばれるジャンルが存在します。その名の通り、路上の日常を切り取る表現ですな。これは後ろ姿だけに限らず、人混みであったり正面であったり座っていたりと様々。
少し前に某メーカーがプロモーション映像として、もはや迷惑行為と呼べる撮影手法を『これぞプロ』的な扱いで公開し炎上したのは記憶に新しいところ。
その映像は私も見ましたが、カメラを嫌がっている通行人まで追いかけてレンズを向け、強引に撮影していく姿はたしかに不快。昭和のフィルム時代ならばまだしも、今この時代にあのやり口はアウトでしょう。
まぁカメラ界は政界と同じで頭を切り替えられないジジィがのさばっている世界なので、あれも『ストリートスナップとはそういうものだ』と擁護するプロは多いんですけど。
ただし彼の「今からおまえを撮るぞ!撮ってるぞ!」という正々堂々の撮影スタイルだけは認めて良いのではないかと。
「他人を勝手に撮るなら正面から撮れ。それができないなら人なんて撮るな」
これはとある写真家の方の言葉ですが、私も本当にその通りだと思います。相手にバレないようにしか撮れないならば、スカートの中を撮っている盗撮犯とさほど変わりはありません。
肖像権
まずは少し面倒臭い話から。
法律の話になりますし、法の専門家ですら解釈や意見が分かれる部分なので、とりあえずざっくり感で。
モデルでも俳優でもない、そこらへんを歩いているただのオッサンだとしても、その人には『肖像権』というものがあるとされています。なので勝手に撮影し勝手に公開することは『肖像権の侵害』という解釈をされる場合があります。
『個人を特定できないならば可』という見解もありますが、この『特定できない』の線引きについても曖昧。
例えば私をあまり知らない人間であれば、私の後ろ姿を見てもどこの誰とは特定はできないでしょうが、友人ならば「あれ?」くらいには思いますし、家族ならば確実に特定できます。もちろん私自身が見れば体の一部でも自分だと確信できます。
このあたりの定義が難しいため、『特定できない』の線引きを明確にすることが困難なのでしょう。
ここを都合の良いように解釈して、『とりあえず顔が写ってなければOK』という言い訳をするカメラマンも多くいます。
人として
わたしゃ撮り逃げカメラマンを法的に『違法だ』と言っているわけではないのですよ。
たしかに私個人としてはそういう撮影ばかりする人間を軽蔑していますが、だからと言ってエゴに満ちた正義感を振りかざして批判する気はありませんし、やめさせようとも思っていません。
単純に
相手にバレないように撮影して、
相手にバレないようにその場を去って、
「はい、私の作品です」
…というやり口が「姑息でみっともない小者だな」と見下しているだけです。あくまで私の感想です。
とにかくこの手の撮り逃げカメラマンの動きって、バレバレなんですよね。
雰囲気の良い路地を撮ろうとしているカメラマンがいて、その横を通っていく場合。ある程度の位置で「まぁここで切るだろうな」という地点でクルッと振り返ると、案の定こちらにレンズを向けて撮っているのですよ。
そこで軽く手でも上げてくれれば、こっちも「おう」と手を上げて気持ち良く済みますし、その後も「いい写真を撮ってくれよ…」と思いながら歩いて行きます。なんならポーズを決めてやってもかまわないくらい。
しかしそういう輩って、こっちが振り向いた瞬間にササッとカメラを下ろして視線を逸らし、足早に去っていくんですよね。
そういうトコなのよ、わしが見下す理由は。
そんなんだから『撮り逃げ』と言われるんじゃないですか。あなたは今、自分が良いと思う作品を生み出そうとしていたのでしょう?だったら堂々としてりゃいいじゃないですか。なぜ撮っていたことを隠す?なぜ足早に去る?
撮影していた事を誤魔化すくらいなら、最初からカメラなんて持つな、と。
もちろん私もそういう表現の写真を撮る事はあります。人の後ろ姿って、なにかしら感じさせるものがありますからね。
しかし事前にチャンスがあれば「ここを歩いて行く後ろ姿を入れても良いですか?」と聞きますし、瞬間的に自然な姿を撮りたかった場合は撮影後に「さっきここの風景を撮らせてもらいました」とモニタで見せ、不快な顔をされたら目の前で削除します。
それを恥ずかしいとか思っている人間はストリートスナップをする資格がないと思っていますし、やめて欲しいとすら思います。
重ねて言いますが、あくまで私個人の考えですよ。
他人に強要する気はありませんし、同意して欲しいとも思っていません。しかしどんなに屁理屈をこねて否定・批判されても私の考えは変わりませんし、変える気もありません。
無許可で後ろ姿・あとがき
・・・というわけで、ちと個人的な意見が多くなってしまいましたが、
無許可で後ろ姿を撮影。有りか無しか。
私の結論としては
『有り』
だと思っています。
おいおい、言ってる事が違うだろって? さっきも言ったじゃないですか、あくまで私個人としては大嫌いだし軽蔑していますよ、と。しかしだからと言ってそれを世の中のスタンダードだなんて思っていません。自分の価値観と異なるものに出会うと脊髄反射で否定したがるのはガキとバカの専売特許ですから。
もっと広い視野で、自分も含めたうえで『写真撮影』というものを客観的に考えた場合、撮り逃げも一つの手法だと思っています。
ただし勝手に撮られるのが嫌な人間は多くいます。そして先ほども書いたとおり、今は個人の権利に対してうるさい時代です。そこをしっかりと理解したうえで「私は相手にバレないように撮って立ち去る」と決めているのならば、それもまた1つの信念でしょう。
万が一法的に問題があるとなれば、責任を問われるのは撮影した本人。被写体と揉めたとしても、解決するのは撮影者本人。私がとやかく言う問題ではありません。